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推薦書籍:「種類株式プラスα徹底活用法」

(ダイヤモンド社)  

事務局:石井 達哲    

  6月17日の全体研修会で、司法書士の安藤功先生が担当される種類株式の活用法を紹介した
  書籍について、「種類株式プラスα徹底活用法」が少しでも理解できるように前書きを少し
  引用しておきます。

  「種類株式」と「属人的株式」を合わせた用語として「種類株式プラスα」と言う表現が使わ
  れています。

  はじめに ー「種類株式プラスα」と企業経営

(1)〜経営上の悩みを解決する強力なツール〜

  「種類株式」という制度、その言葉や制度自体はご存知だったとしても、それが中小企業の
  経営やベンチャー企業の立ち上げなどに大いに関係があるという事にお気づきでしょうか?

  日本中の企業経営者の方々は勿論、専門家と言われる先生方や、一流と呼ばれる経営コンサル
  タントの方々さえ、ほとんど誰一人としてこのことにはまだ気づいていないのですから。

  勿論、書店に出回っている書籍で、「種類株式」について、企業経営の視点を入れて言及した
  ものは今のところ皆無です。

  さらに、「属人的株式」。
  これは間違いなく一般の方々の99.9%が初めて耳にする言葉だと思います。
  しかし、「種類株式」も「属人的株式」も2006年5月に制定された新会社法上で正式に
  定められている制度で厳密に言えば、それ以前の「商法」、「有限会社法」の時代から部分的
  には存在していた制度です。

  実は、この種類株式プラスαには、従来の株式の常識を覆すような縦横無尽の活用法が隠されて
  います。
  しかし、前記のように、このことに関しては全く情報が出回っていません。
  そこで本書はまさに種類株式プラスαに関する「本邦初の決定版的入門書」として作られた
  ものです。

  本書では「承継問題」「危機管理」「資金調達」「内部統制」「企業再編」という企業経営に
  おける重要な5つのテーマで種類株式プラスαを縦横無尽に活用するノウハウを公開するととも
  に、気になる税制の問題にも言及しさらには実際の活用例をもわかりやすく解説しています。

  本文中でその内容は詳しく述べますが、例えば承継問題に悩む中小企業経営者の方々なら
  「議決権制限株式」や「比重株・VIP株」、資金調達に苦慮しているベンチャー起業家の方々
  なら「取得請求権付株式」や「役員選任解任権付株式」といった種類株式プラスαを活用する事
  で、素晴らしい解決にたどりつける可能性が十分あるのです。
  また、その活用法は無限に考えられるので、ここにあげた5つのテーマに限らず、経営上のあら
  ゆる悩み事に対して、必ず本書はお役に立つはずです。


(2)種類株式プラスαと定款自治

  では、種類株式プラスαとは具体的にはどのようなものでしょう。
  これは要するに、普通株式とは内容が違った特別な株式のことを言います。
  詳しくは本編で述べますが、普通株式とは、一株ごとにひとつの権利、即ち議決権とか配当金
  とかをもらう権利とかを、すべて平等に持っている株式のことです。

  一方、種類株式プラスαとは、その株式の種類や持っている人の地位や立場などによって、
  普通株式とは異なる大きな権利や特別な権利を持っていたり、あるいは逆に権利が制限されて
  いたりする株式のことを言います。
  普通株式ばかりの会社なら、多くの株数を持っている株主がすべての面において「会社の支配
  者」となります。

  最近の上場会社の乗っ取り騒動でも見られるように、株式を買い集めることによって会社を買収
  することもできます。まさに「資本主義の原理」そのままの世界が実現しているわけです。
  しかし、わが国の企業の大多数を占める中小企業や、これから立ち上げられるベンチャー企業に
  おいても、そのような「資本主義の原理」ですべてを語ってしまってよいのでしょうか?

  全国津々浦々に存在している中小企業やベンチャー企業には、存在そのものに、創業者の熱い
  想いや従業員や周囲の人たちの夢と希望、そして地域社会や国民全体の願いが込められている
  のだと思います。
  そういった企業においてこそ、種類株式プラスαは有効です。
  その活用によって、冷徹にカネだけで支配される会社でなく、強い個性を持ち、活気に溢れる
  企業を作り出すことができるのです。

  ところで、種類株式プラスαは、新会社法がその基本理念とする「定款自治」から導きだされた
  考え方だと言われています。
  「定款自治」とは事業規模や経営者の考え方などに関係なく「会社」を一律に法律で規制しよう
  とする従来の考え方ではなく多くの部分で各社の自主性、即ち「自治」に任せようとする考え方
  です。すなわち、大企業は大企業なりに、中小企業やベンチャー企業そしてもっと小さい企業は
  それなりにと、各企業が自らの「身の丈に合った」経営を、自分達で自由にルールを定めて進め
  なさいということなのです。

  そして、その「定款自治」の代表的なツールとして種類株式プラスαの制度が整備されたわけ
  です。
  これは、「資本主義の原理」だけを押し通すのではなく会社ごとに実情に合致した種類株式プラ
  スαを活用した新株式制度を自ら構築できるようになった事を示しています。
  勿論、新株式制度を使うか使わないかも含めて自治に任されているわけで、最終的に必要なのは
  アイデアだけといえます。


(3)いよいよ始まる種類株式プラスαの本格活用

  ところが、新会社法が制定されてから1年以上が経過しても、世間ではこのことを語る人が
  いません。
  その理由を考えてみると、まず、1つには、法律と経営の両面から物事を判断できる人材が、
  わが国では専門家やコンサルタントと呼ばれる方々の中にいない事があげられると思います。
  確かに「株式制度」は法律面だけから見れば単なる法律の規定にすぎず、経営面だけから見れ
  ば何の為の制度か理解できないでしょう。

  しかし、その両面から制度を眺め、根本である新会社法の制定趣旨を考えた時、初めて本質が
  見えてくるのです。

  次に、株式制度などというものは、大企業が乗っ取り防止対策や反対株主を排除するために使う
  ものであって、中小企業には関係ないとの思い込みが強い事があげられます。
  そして、まれに種類株式を紹介している書籍があっても、ほとんどがそういった「対立の発想」
  で株式制度を語っているようです。

  しかし、ここでよく考えてみてください。中小企業にとって最も大切な事は「対立」なので
  しょうか?
  決してそうではないと思います。
  それどころか、大企業と違って経営的な基礎体力の弱い中小企業やベンチャー企業は、株主間で
  対立するような、いわば、「経営に何のプラスにもならない」行為をしていては生き残ることな
  どできません。
  それは、つまらない揉め事が原因で潰れていった多くの会社の例からも明白でしょう。
  中小企業にとって最も大切な概念は「調和」だと思います。

  勿論、中小企業やベンチャー企業もそれなりの規模になればいろいろな株主が存在し、それぞれ
  違った事情があるでしょう。
  しかし、それを対立によって排除するのではなく、調和によって共存するという考え方、
  すなわち「Win-Win」の関係構築が最も重要なのです。

  実は、種類株式プラスαの制度には、そういった「WinーWin」を目指す為の便利なツール
  がたくさん用意されています。
  ただ、あまりに「策を弄する」ことは「策に溺れる」ことにもなるのでツールを正しく活用する
  為には十分な理解が必要です。

  また、「種類株式は税制がわからないから使えない」と言う意見も最近まではびこっていま
  した。
  つまり、相続が発生した際などに普通株式と種類株式では相続税の評価基準額が異なる可能性
  があり、それが税務リスクになるので、導入を控えようと言う考え方です。
  実際、2006年度の段階では、まだ国税の正式な通達が発せられておらず種類株式の税評価
  に関してはいろいろな説が出ていました。
  けれど、2007年度には正式に税評価の基準が発表され、それほど大きく評価が異なるわけ
  ではないことが明らかになりました。
  今後はこうした理由での導入慎重論はなくなっていくでしょう。

  以上のように、さまざまな理由から種類株式プラスαの導入はほとんど進んでいません。
  しかし、実は中小企業やベンチャー企業の経営戦略として縦横無尽にフル活用できる可能性が
  あるのです。
  まさに「新会社法に眠る最終兵器」ともいえるでしょう。
  但し、この最終兵器は、その威力が絶大であるがゆえに、用法をよく理解して正しい使い方を
  しないと、逆にとんでもない災いをもたらす「ポイズンビル(毒薬)」になってしまうリスク
  をも孕んでいます。

  本書を手に取られたことを機会として、中小企業経営者の方々やベンチャー起業家の方々には、
  種類株式プラスαの正しい活用法を理解され、自社に最もふさわしい株式制度の構築を計画し
  ていただきたく思います。
  また、専門家やコンサルタントの皆さんは、中小企業やベンチャー企業への新たな提案ツール
  として、本書をご活用下さい。
  2007年度が「新株式制度元年」になると予想すると同時に多くの中小企業やベンチャー企業
  が健全な発展を遂げられることを心から願っています。

  2007年7月

                         河 合 保 弘      
                           LLP経営360度一同